三作目 夏恒例!ホラー祭り

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「悪魔のいけにえ 公開40周年記念版」 ©MCMLXXIV BY VORTEX, INC.

よく【映画監督の本質は処女作にあり】と言うが、なるほど確かにオレの処女作である「モテキ」には、「女のコが好き! 可愛いコが大好き! エロいコが大大好き! あと音楽も好き!」という恥ずかしいほどのオレの本質が詰まっていた。
オレごときを映画監督としてカウントするかどうかは置いておいたとして、古今東西の名監督の処女作にはその後の名作を予感させる【素】のようなものが詰まっている。

中田秀夫監督の処女作「女優霊」は、オレが思う名処女作の中でも屈指の出来であり、中田監督のすべてが詰まっている。
【新人監督・村井は撮影したカメラテストのフィルムに、いなかったはずの別の女優がいることに気づいた。それから次々と奇妙なことが起こり始めて……】
というプロットは、日活撮影所で助監督をやっていた中田監督自身による発案であろう。

実際、日活には「出る」という噂がたくさんあったし、職場として過ごしていた中田監督はたくさんの【ネタ】を溜め込んでいたことだろう。そのネタを元に、自分の処女作で主人公を新人監督にして映画を作るという、恐ろしいメタ構造で作られたのが「女優霊」だった。低予算のために残フィルムで撮られたという映像、深夜に走るロケバス後部の暗闇、様々な人間の念が染み込んでいるであろう土間のスタジオ、天井に木材で組まれた二重と呼ばれる足場、日活内でも特に「出る」と言われるアフレコセンターの廊下……映画撮影や撮影所を知る者ならではの【現場あるある】に満ちていた。

肝心の【女優霊】そのものは、のちに中田監督の名を世間に知らしめる大ヒット作「リング」の貞子の原型とも言えるビジュアルなのだが、正直貞子の完成度と比べるとまだプロトタイプというカンジでそれほど怖くない。むしろ怖いのは、前述したような「古い撮影スタジオに漂う嫌ぁな空気」の描写である。
中盤、主演女優(白島靖代)との間にトラブルを抱えた事務所社長(根岸季衣)がスタジオに怒鳴り込むシーン、社長はズカズカと歩いてきたが、急に立ち止まり戦慄&恐怖の表情で「あんたたち、なに撮ってんの……?」と、お守りを置いて立ち去ってしまう。このシーンが超怖い! オレは初めて観たとき、マジでションベンをちびったほどだ。

そして霊そのものではなく、場の空気で恐怖を演出する中田監督の、処女作とは思えぬ演出力に感服した。「リング」から始まった“Jホラー”の素はすべてこの「女優霊」に詰まっているのはないだろうか?低予算ホラーはアイデアと演出が重要とされ、処女作に名作が生まれやすいような気がする。

8/6 ~ 13までWOWOW【納涼!夏はホラーで肝試し特集】で放送される、トビー・フーパー監督の処女作「悪魔のいけにえ(公開40周年記念版)」も、低予算ゆえの空気感の演出に長けている。レザーフェイス&チェーンソーはもちろん死ぬほど怖いが、テキサスの蒸すような嫌な空気を画面に漂わせる演出こそが、この映画を傑作たらしめていると思うのだ。ちなみにオレは極度の怖がりなのでホラーは絶対に撮りません!!

放送スケジュール

放送スケジュールはこちら

納涼!夏はホラーで肝試し

8月6日(土)~13日(土) ※WOWOWシネマ
■8月6日(土)「死霊高校」22:15 / 「アパートメント1303号室」23:45
■8月7日(日)「インシディアス 序章」23:30
■8月8日(月)「エミリー・ローズ」23:15
■8月9日(火)「13ゴースト」23:00
■8月10日「ザ・グリード」23:30
■8月11日(木・祝)「JUKAI-樹海-」21:00  / 「ミスト」23:00
■8月12日(金)「悪魔のいけにえ 公開40周年記念版」23:15 / 「フライトナイト」24:45  / 「第七の予言」26:45
■8月13日(土)「レリック」04:30 計12作品

加入・お問い合わせ 0120-808-422(9:00〜21:00)/月額視聴料2,300円(税込2,484円) ※加入料はかかりません。

本連載が掲載されている『キネマ旬報』

kinejunbook201607

キネマ旬報 2016年8月上旬号

記事に登場する作品情報

 

悪魔のいけにえ 公開40周年記念版

女優霊

リング