五作目 松田優作と 二つの “探偵物語”

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「探偵物語(1983)」 ©KADOKAWA 1983

「探偵物語(1983)」 ©KADOKAWA 1983

10月3日〜14日にWOWOWで放送される【特集・蘇える松田優作】は、レアな初期作品から代表作までの全10作すべて録画必至プログラムだが、「探偵物語」に関してはずっと不思議に思っている未解決問題がある。それはずばりタイトルのことだ。

キネ旬読者には説明不要かと思うが一応書いておくと、松田優作にはテレビドラマ『探偵物語』という超有名&代表作がある。ご存知、探偵の工藤ちゃんが様々な事件に巻き込まれる物語は、黒スーツに赤いネクタイ・愛車ベスパ・やたらと火力の強い100円ライターなどと共に、我々世代に強烈なインパクトを与えた。

ところが、放送(1979年〜1980年)からわずか3年後、まったく同じタイトルで映画って!? 当時オレは映画「探偵物語」(83)の製作がアナウンスされた時、当然「工藤ちゃんが帰ってくる! しかも映画で!!」と大興奮した。ドラマの最終話で工藤ちゃんは死んでるけど、まあそんなの関係ねえ! 工藤ちゃんにまた会えるならどーでもいいや!! と、思った。だが、その内容が徐々に明らかになっていくと……あれ? 工藤ちゃんじゃない? ……え? 薬師丸ひろ子主演で松田優作は相手役? どういうこと?……っていうかさあ、百歩譲って松田優作が出ないなら「探偵物語」ってタイトルでも許すけどさあ、優作が出ててなんで同じタイトルにするのよ!? 当時、優作にかぶれていた男子ならば誰もが思ったことである。

不思議なのは、あれほど役者としての仕事や作品にこだわっていた松田優作が同タイトルを受け入れたことだ。優作がメジャーになったキッカケであり、大事にしていたはずのドラマ『探偵物語』を汚すようなことをするわけがないのだ。ちなみにドラマ『探偵物語』は小鷹信光氏の原作はあるものの、ほとんどがオリジナルで、映画「探偵物語」は赤川次郎氏原作の小説である。内容としてはまったく関係がない。が、プロデューサーはどちらもセントラル・アーツの黒澤満氏である。黒澤満氏は、松田優作の代表作のほとんどを手がけた、いわば松田優作を育てた人物と言っても過言ではない。まあ邪推するに、同じタイトルに拒否反応を示した優作に黒澤氏が「まあ今回は俺の顔を立ててくれよ」と説得したのではないだろうか? おそらく場所は下北沢のバー“レディ・ジェーン” であろう。

かくして映画「探偵物語」は、「時をかける少女」と同時公開され、とんでもない大ヒット作(興収51億円!)になった。映画のラスト、成田空港での優作と薬師丸ひろ子の名キスシーンで完全に舌が絡み合っているのだが、「あれはひろ子ちゃんが自分から舌を入れてきたんだよ」と、優作が当時のインタビューで言っていました。「マジか!?」と、違った意味で興奮したことを今でもよおおおく覚えています。

でもオレは今でもこの映画のタイトルだけは認めていないし、個人的には「探偵さん物語」と呼んでいます。

 

放送スケジュール

放送スケジュールはこちら

日本映画コレクション:蘇える松田優作

■「暴力教室 (1976)」10月3日(月)23:30
■「俺達に墓はない」10月4日(火)23:00
■「蘇える金狼 (1979)」10月5日(水)23:30
■「野獣死すべし( 1980)」10月6日(木)23:00
■「ヨコハマBJブルース」10月7日(金)23:00
■「探偵物語 (1983)」10月10日(月・祝)23:00
■「ア・ホーマンス」10月11日(火)23:15
■「最も危険な遊戯」10月12日(水)23:00
■「殺人遊戯」10月13日(木)24:00
■「処刑遊戯」10月14日(金)23:00

加入・お問い合わせ 0120-808-422(9:00〜21:00)/月額視聴料2,300円(税込2,484円) ※加入料はかかりません。

本連載が掲載されている『キネマ旬報』

kinejunbooks201609

キネマ旬報 2016年10月上旬号

記事に登場する作品情報

探偵物語(1983)

時をかける少女(1983)

大根仁監督 最新作情報

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あらすじ

フリーカメラマンの都城静(46)は、かつて数々の伝説的スクープをモノにしてきたが、現在は芸能スキャンダルを中心に追うパパラッチ。そんな彼が、写真週刊誌「SCOOP!」の新人記者とタッグを組む中で、スクープを獲得していき、次第に大きな事件を追う事になる…