「野火」 ©2014 SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER
映画撮影の現場における“監督モニター問題”というものがある。
いや、実際にあるかどうかは知らないが、オレはテレビドラマを経て映画を撮るようになってからこの問題に直面した。モニターとはカメラが映した映像を現場で見る機材のことだが、フィルム時代にはこのシステムは存在しなかった。カメラが映す映像を見ることができるのはカメラマンだけだったので、必然監督をはじめとするスタッフは役者の演技全体を見るしかなかったのだが、ビジコンという簡易モニターが開発され、デジタルカメラの時代になってからはどの現場にも大きなモニターが設置され、各スタッフが自分の仕事をチェックできるようになった。
それによって現場のミスが軽減するようになり、役者・スタッフともに撮影されている素材を共有することができるようになった。映画の歴史の変遷をどこで区切るかはわからないし、オレごときが語ることではないのだが、かつての映画と現代映画の境目は、意外とこの“モニターシステム”にあるような気がする。
だが、監督に関してはいまだに「モニターだけ見ている監督はちょっと安っぽい」というムードがある。いや、実際には無いかもしれないけどね。ベテランの役者とか技師さんが現場にいると、なんかそんな目で見られているような気がするんですわ。監督たる者、役者にいちばん近い場所=カメラ横で真剣な顔で腕組みをして芝居を見守るべき、みたいな。特にテレビドラマ出身の監督は現場モニターがデフォルトなので、どうしてもモニター越しでしかショットの出来不出来の判断ができない。
デジタルカメラ時代の今や、世界中のほとんどの監督がモニターを見ているのでそこは気にすることはないのだが、「それってどうなんだろうなあ?」と思っていたオレの折衷案が“自分でカメラを回す”であった。もちろんメインカメラではなくBカメと呼ばれるサブのカメラだが、自分でカメラを構えるとあら不思議。役者の芝居がモニター越しより伝わってくるのだ。
「鉄男」 ©1989 SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER
だが、この世には恐ろしい監督がいたもので、監督・撮影・主演を兼ねるという人が存在する。塚本晋也さんである。塚本さんは「鉄男」から「野火」までほとんどの作品が監督・撮影・出演である。一体どのようなシステムで撮影しているのかまったくわからないし、そもそも「自分が出演しているシーンを自分で撮影できるわけないじゃん!」と思うが、漏れ伝わるところによると「野火」の現場では自分の出演シーンを自分で撮りながら小さなモニターで確認していたという。そんな監督は世界でも塚本さんだけだろう。いや、ひょっとしたら「鉄男」の頃からそうだったのかもしれない。そんなことを妄想しながら7月のWOWOW『映画作家・塚本晋也特集』をチェックしたいと思っている。
放送スケジュール
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7月24日(日)~8月5日(金)
「野火」「鉄男」「鉄男Ⅱ BODY HAMMER」「鉄男 THE BULLET MAN」
「電柱小僧の冒険」「東京フィスト」「バレット・バレエ」「六月の蛇」「双生児-GEMINI-」「ヴィタール」「悪夢探偵」「悪夢探偵2」 全12本
加入・お問い合わせ 0120-808-422(9:00〜21:00)/月額視聴料2,300円(税込2,484円) ※加入料はかかりません。
本連載が掲載されている『キネマ旬報』
塚本晋也監督作品 KINENOTEユーザー平均評点ランキングTOP5!
映画鑑賞記録WEBサービス「KINENOTE(キネノート)」は、あなたの映画鑑賞記録を100点満点で評点を付け、レビューを投稿出来る、とっても便利な映画ライフログツール。年に何度も映画館に通うような“映画通”のユーザーが多いから、評点・レビューともに超濃厚!そんなユーザーのみなさんによる塚本晋也監督作品の平均評点が高い5作品をピックアップして紹介いたします!
1位 |
2015年公開 |
平均評点 78.2点 |
2位 | 六月の蛇
2003年公開 |
平均評点 71.5点 |
3位 |
1989年公開 |
平均評点 70.1点 |
4位 | BULLET BALLET バレット・バレエ
2000年公開 |
平均評点 70.0点 (※同率) |
4位 | TOKYO FIST 東京フィスト
1995年公開 |
平均評点 70.0点 (※同率) |
5位 | KOTOKO 1995年公開 |
平均評点 69.7点 |